よい休息を取るために

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睡眠を妨げるもの

【症例03】仕事をしていると腰や手足に張りを憶える。週の初めはまだいいのだか週の終わりに近づくにつれ次第に座っているのもつらくなってくる。肩こりや目の疲れもあり、きつくなると頭痛がしてくる。毎朝起きるのがつらく、朝は食欲がない。毎日、深夜まで仕事に追われ、疲労が蓄積しているのを感ずる。

連日、夜遅くまで仕事に追われている方にとって、疲労の蓄積は避けがたい問題です。とくに問題となるのが、睡眠の質の低下です。夜遅くま仕事をしてバタンキューで眠りに入れる人はまれで、身体は疲れているのに頭は興奮して寝付けない、朝起きても十分寝た気がしないとい訴える方がすくなくありません。

質のよい休息とはどのようなものなのか、まだどのようにすれば質のよい休息を取ることができるのかをよく理解しましょう。

日中、わたしたちの体内は厳格に恒常性が保たれています。これに対し睡眠中は恒常性維持の働きが緩やかになり、たとえば体温は、緩やかに下降し、脳の深部が35℃近くまで下がるまで体温を上げるための反応が起こりません。

アルコールなどの毒物に対する解毒作用も大きく低下します。飲酒中に寝てしまい、起きたら悪酔いしていたという経験をお持ちの方も多いと思います。

その結果、体内のエネルギー消費は大きく低下し、心身を休息させることができます。ただし、それだけで質のよい休息を生まれるわけではありません。質のよい休息の鍵を握るのが、睡眠中に起こるさまざまな不随意運動です。

たとえば歯ぎしりをしたり、顔や口の周辺がぴくぴく動いたり、目がゆっくりと運動します。夢を見たり寝言を言ったりするのも特長です。胃や腸の平滑筋は互いに刺激しあって活発に蠕動運動をはじめます。

日中は、大脳を中心に体内はたえず臨戦態勢に置かれているのに対し、睡眠中は大脳の中枢機能が低下し、さまざまな器官は、本来備わっている原始的な姿を取り戻します。睡眠中の不随意運動は、さまざまな器官の健全な活動を維持する大切な生理活動なのです。

睡眠の質が低下すると、大脳の働きが十分に低下せず、不随意運動が減少します。朝、目を覚ましても、体内に発散されない余剰なエネルギーが充満して、本来働くべき自律神経(交感神経系)がうまく働かなくなってしまうのです。

このような状態では、たえず疲労感を感じやすいばかりか、ストレスに対する抵抗力が低下し、精神的にも肉体的にも重圧感を感じやすい状態におかれます。この症例の方に見られる寝覚めの悪さや朝の食欲の低下、節々のこわばりは、睡眠の質が低下しているときの代表的な症状です。

なにが眠りを妨げるのか

脊髄と椎間関節睡眠の質を低下させる要因には、精神的な要因肉体的な要因の二つがあります。両者は密接に結びついています。気持ちが落ち着くと身体がくつろいでゆるんできます。とくにゆるめておきたいのは、脊柱の関節のこわばりです。脊柱の関節は前のページで紹介したように神経の通り道になっています。このため関節のこわばりが神経を圧迫し、その結果筋肉が緊張してさらに関節をこわばらせる悪循環をおこします(神経根症)。

眠りについても、ちょっと身体を動かすたびにこわばった関節が反応して、なかなか眠りには入れなかったり、朝起きても寝た気がしないといったことが起こります。これは、身体がしっかり緩みきれていないことによるのです。

睡眠の妨げとなる後頭窩筋群

たとえば昼間パソコン作業をしている人は、頭の位置を安定させるために上部頚椎と後頭部を結ぶ筋肉をたえず酷使しています。その結果、頭と背骨を結びつける後頭部の関節がこわばった状態におちいります(下図参照)。

これらの筋肉群は、いずれも後頭部の深部にある深層筋です。緊張するとわずかな頭の動きにも反応し、睡眠の妨げになります。「寝ても寝た気がしない」といったことが起こるのです。

これらの筋肉が緊張しているときは、三叉神経など脳神経にも緊張が生じています。頭痛や歯ぎしりが強くなったり、頬の筋肉がぴくぴくする(チック症)、頭を動かすとめまいがするなどの症状がつよくなります。

三叉神経のイメージ

これらの関節を緩める操作は精神的に深いリラックスをもたらしてくればだけでなく、頭重感を取り除き、目の前が明るくなったような感覚を招きます。深りラックスによってもたらされる気分転換は、精神的な緊張を取り除く上でもとても重要な意味を持っています。

日ごろ蓄積した関節のこわばりを取り除き質のよい睡眠を取り戻せば、疲労回復の点でも、ストレスに強い身体を作る上で、大きな変化が起こります。この症例の方も、身体の調整と同時に、睡眠時の姿勢や食事などをふくめた生活の改善によって、眠りの質が改善され、便秘の解消や肉体的・精神的な疲労感から開放され、快適な生活を送れるようになりました。