腰痛を生み出す生体力学

腰痛のもとになる身体力学

腰痛は多くの人を悩ませるもっとも大きな痛みの1つです。一度痛みが起こるとなかなか完治しないと思われている方も多いかもしれません。決してそんなことはありません。症状が発生する原因をよく理解して積極的に腰痛を克服できることを知っていただきたいと思います。

本田技研工業アシモ

本田技研工業が作り出したアシモは、人間の歩行動作の持つ特徴を取り入れることにより、従来のロボットにはない安定性と敏捷性を生み出しました。ヒトに近い二足歩行は、なんともいえない親しみを感じさせますね。しかし、そのアシモでさえ、歩行時に持つことのできる荷物の重さはわずか1kg(2011.02月現在のデータ)に過ぎません。

人間の身体は、アシモよりはるかに華奢な材料で出来ています。しかし、ずっと重い荷物を持って、すばやく運動することができます。じつは、なにげない日常動作でさえ力学的にはとてつのなく大きなエネルギーが発生しています。ここにアシモには真似のできなかった大きな壁があるのです。

跳躍のバイオメカニクス

たとえば体重60kgの人が10cmの高さから飛び降りると、体重計の目盛りは簡単に体重の10倍=600kgにまで跳ね上がります。ジョギングをすれば、踵には体重の2.5倍程度の衝撃がかかります。アシモがゆっくり活動しているのは、そのような巨大なエネルギーに耐えられないからなのです。

わたしたちは、このような大きな力のなかで、なぜ平気でいられるのでしょう?

その秘密は、人体の持つ高度な情報処理能力にあります。わたしたちの身体は、生きた細胞によって作られています。信号を伝える神経の太さはわずか1ミクロン、関節を動かす筋繊維にいたってはわずか数ミクロンです。もちろん、モーターも電源装置もそれをつなぐ配線やセンサーも必要ありません。

わたしたちの関節は、神経や筋肉のミクロのパワーでびっしりとガードされ、多方向から緻密に荷重バランスの調整をおこなうことができます。それゆれに、想像を超える大きなエネルギーを意識することもなく、すばやい動きを作り出すことが出来るのです。

腰椎のわずかな関節変位がぎっくり腰を引き起こす

おじぎのバイオメカニクス人間の身体は、じつはかなり巨大です。日常動作で生ずる重み衝撃は、ちょっとしたことで骨や筋肉を破壊するに十分すぎるほどなのです。

お辞儀の姿勢を例に考えてみましょう。上半身を前方に傾斜させたお辞儀の姿勢では、下部の腰椎を支点とするテコが働いています(右図参照)。上半身の重心を胴体の中央として、その重さを20kgと仮定すると、このとき、腰椎の後方に200kg近い力が生ずることがわかります。

これに対し、痛みを伝える神経の線維はわずか1ミクロンです。関節靭帯骨膜のなかには、高度な荷重バランス制御のため、この小さな神経の線維がびっしる張り巡らされているのです。

関節の故障によるわずかな荷重バランスの乱れが激しい痛みを引き起こさせるのは、当然といえば当然なのです。

痛みやしびれはなぜ出る?で紹介したように、わたしたちの身体の重みは、意識しているよりもずっと巨大です。お辞儀の姿勢は、いわば水をいっぱいにつめたポリタンク1~2個(20~40kg)を斜めにして身体の前で抱えようとするようなものです。このとき、指先や腰にどれほど大きな力が必要か想像してみてください。

この重み衝撃に耐えられるのは、生まれながらに備わった関節の高度な情報処置能力がしっかりしているからです。大切なことは、しっかりと関節機能を回復し、身体の重み衝撃を均等に分担しする高度な情報処理能力を回復することです。これこそ、数十億年にわたる生命の進化によってもたらされた人類特有のパワーなのですから。

脊柱の関節と神経

腰痛を克服するためには、まず最初に関節に生じている痛みを取り除きましょう。痛みのある関節は、かたよった位置に固定されています。押してみると動きに制限があります。

このような関節は、じっとしているときはなんともなくとも、立ったり歩いたり、ちょっとでも衝撃が加わるような場面では、かならず激しい痛みを引き起こします。

この痛みは、たんに筋肉が凝ったり疲労して生じる痛みではありません。身体の重みに関節の神経が悲鳴を上げている痛みです。深層筋の緊張を取り除いて痛みを鎮静すると同時に、わずかでも動きの制限が残らないように、多方向から関節の位置の調整をおこない、柔軟な関節の動きを回復しましょう。

身体の体勢や動作によって生ずる腰や膝、足首などの激しい痛みを改善するためには、関節運動の果たすべき役割、逸脱している関節の本来あるべき位置をよく知っていなければなりません。そして、生理的な範囲を超えてずれてしまった関節を安全かつ正確に適正な位置に復位させる技術が必要なのです。